大判例

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甲府地方裁判所 昭和61年(ヨ)41号

債権者

清水真由美

伊藤貴美子

小林猪勢代

笹本美智子

清水咲枝

西野みよ志

堀内政子

松永とめ子

柳本喜美子

米倉住子

右十名代理人弁護士

寺島勝洋

関本立美

加藤啓二

鴨田哲郎

宮本智

債務者

富士産業株式会社

右代表者代表取締役

若尾亘

右代理人弁護士

馬場東作

森田武男

主文

一  債権者らに債務者会社総務部庶務課保険係において就労する義務のないことを仮に定める。

二  申請費用は債務者の負担とする。

理由

一  申請の趣旨及び理由

債権者らは、「債権者らが債務者会社第二製造部製造二課に所属する従業員たる地位を仮に定める。申請費用は債務者の負担とする。」との裁判を求め、その申請の理由として要旨次のとおり主張した。

1  債権者らは、いずれも債務者会社の第二製造部製造二課に所属する従業員であるが、債務者は、昭和六一年二月二〇日、債権者らに対し、債権者らを同月二四日付で総務部庶務課保険係に配置転換する旨の意思表示(以下、「本件配転命令」という。)をした。

2  しかしながら、本件配転命令は、次の理由により、その効力を生じない。

(一)  労働契約違反

債権者らの入社時における債務者との労働契約において、債権者らの職種については、いずれも製造部門における作業員と特定されていた。仮に、入社時における労働契約において右のような職種の特定がされていなかったとしても、債権者らは、債務者会社に入社以来、長い者で三三年間、短い者でも一六年間、一貫して製造部門の業務に従事してきたから、この間に、債権者らと債務者との間には、債権者らの職種を製造部門における作業員とする黙示の労働契約が成立したというべきである。

従って、保険業務という、製造部門とは全く異なる職種への配置転換は、労働契約の変更に当たり、債務者には、一方的な意思表示により右配置転換を命ずる権限はない。

(二)  労働協約違反

債権者らは、いずれも日本労働組合総評議会全国金属労働組合山梨地方本部富士産業支部に属する組合員であるが、同組合は、昭和四七年七月一日、債務者との間で、「人事配転に関する協定書」を締結し、同協定書の第二項には、「会社は、人事配転に関しては公正妥当を期するとともに、本人の意志を尊重することを原則とする。」との定めがある。

従って、債権者らの意志を全く無視して行われた本件配転命令は、右労働協約に反するものである。

(三)  人事権の濫用

債務者は、債務者会社の経営状態が悪化し、第二製造部製造二課において余剰人員が生じたことを本件配転命令の理由としているが、債務者会社の経営状態に悪化は認められず、また、仮に悪化が認められるとしても、これは、債務者の経営努力の不足によるものである。更に、債務者は、本件配転命令に先立ち、社内で保険係への配転希望者を募ったが、これは極めて形式的になされたに過ぎず、また、本件配転命令につき債権者らを人選した基準も不合理なものである。

従って、本件配転命令が人事権の行使と言いうるとしても、人事権の濫用にあたる。

(四)  不当労働行為

債権者らは、前記のとおり、いずれも前記組合の組合員であり、債権者清水真由美は、前記支部の執行委員長であるが、本件配転命令は、債務者会社の交替制勤務導入の方針に反対する組合に対する報復として、また、今後の合理化施策を円滑に進めるために組合の弱体化を図ってなされたものであり、労働組合法七条一号の不利益扱い及び三号の支配介入に該当する。

3  債権者らは、本件配転命令を拒否し、労働協約に基づき苦情申立てを行ったが、債務者は、全く聞く耳を持たず、債権者らの第二製造部製造二課での就労を拒否している。このままでは、債務者は債権者らに対し業務命令違反として懲戒解雇を行う可能性が高く、その場合、債権者らは、賃金の支払いを受けえなくなり、債権者らに回復し難い損害が生ずる恐れがある。

二  当裁判所の判断

1  債権者らが、昭和六一年二月二〇日当時、債務者会社の第二製造部製造二課に属する従業員であったこと、及び、債務者が同日債権者らに対し本件配転命令を行ったことについては当事者間に争いがない。

2  本件疎明によれば、次の事実を一応認めることができる。

債務者会社は、昭和二六年に各種通信機用抵抗器の製造及び販売を目的として設立された株式会社であり、昭和六〇年四月の定款変更により、生命保険の募集業務並びに紹介及び集金業務、損害保険代理業務、並びに自動車損害賠償補償法に基づく損害保険代理業務を目的に追加したが、その間は、電気器具及び部品並びに医療器具の製造及び販売をその目的に加えたものの、一貫して製造業を営んできた。他方、債権者らは、最終学歴が、高校卒業である債権者堀内政子の他は、いずれも中学卒業の女性であり、昭和二七年から昭和四四年の間に債務者会社に入社し、製造部門の作業に従事した。そして、債権者らは、入社後、現在に至るまでの全期間又は大部分を製造部門の作業員として過ごし、債権者の一部の者が一時従事した右作業員以外の職種も、いずれも製造業に必然的に伴うものであった。

以上のとおりであり、右事実を総合すると、各債権者と債務者との間の労働(雇用)契約において、各債権者が従事すべき職種は、製造部門における作業その他、債務者のなす製造業に関連するものとする旨の合意があったと認めるのが相当である。もっとも、債務者会社の就業規則に、業務の都合により必要があるときは異動、転勤、出向又は職務若しくは職場の変更を命ずる旨、及び、従業員は業務の都合によって職種の変更又は他の業務の応援をさせることがある旨の規定があることについては当事者間に争いがないが、仮に右就業規則の規定に労働契約の内容を補完する効力を認めるとしても、これが債務者に無制限の配置転換を命ずる権限を与えたものと解するのは相当でなく、その範囲は、労働契約締結時の事情、その後の事情の変化を総合して、具体的、合理的に判断すべきである。そして、前記の事実に照らせば、右就業規則の規定を斟酌しても、債権者らと債務者との間の労働契約においては、前記の合意があったと認めるべきであり、その後、右契約の内容が明示又は黙示に変更されたと認むべき疎明はない。

そうすると、債務者が、一方的な意思表示により債権者らに配置転換を命じうるのは、前記合意の範囲内に限られることになり、本件配転命令が右範囲を逸脱していることは明らかである。

3  本件疎明によれば、債務者会社の就業規則では、従業員が業務命令に従わない場合を懲戒事由の一つとし、懲戒(処罰)の種類として減給、出勤停止、解雇等を定めていること、昭和四七年七月一日に成立した労働協約には、人事配転につき、会社と組合の団体交渉が継続中は強行しない旨の条項があるが、本件配転命令については、団体交渉が行われたものの解決に至らず、現在は交渉が途絶していること、そして、債権者らは、現在も本件配転命令に従って保険係で就労することを拒否しているのに対し、債務者は、本件配転命令が有効であると主張していること、以上の事実を一応認めることができる。

右事実に照らせば、債務者が、債権者らに対し、本件配転命令に従わないことを理由に懲戒解雇の処分をする可能性は十分あると認めるべきであり、この場合、債権者らが、賃金の支払いを受けえないこと等により損害を受けることは明らかである。

他方、債権者らに、債務者会社の第二製造部製造二課における就労請求権が当然にあるということはできず、債権者らの前記損害を防止するためには、本件配転命令で命じられた総務部庶務課保険係における就労の義務のないことを確認すれば足りるというべきである。

4  よって、債権者らに保証を立てさせないで、民事訴訟法七五八条一項、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木健太)

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